日経の言う識者

日経は、識者として日本エネルギー経済研究所専務理事 十市勉氏とのインタビューを載せている。
彼は「北海道電力中部電力から電力の供給を受けたうえで、企業が本社や工場などに設置している自家発電を最大限に活用する必要がある」と述べているが、北海道電力中部電力から東電が受電するためには、電気を送る道である送電系統と、各電力会社をつなぐ連係線の容量を拡大する必要があることを述べていない。
つまり各電力会社がどんなに送電しようとしても、前述のように連係線の容量が足らず、例えば東京と中部との間は東電のピークの1/64しか作ってこなかったことを明示すべきだ。まあ、彼の立場では今までのエネルギー政策を批判できないだろうから、このようなものの言い方が精いっぱいなのかもしれないが、それでは識者ではないし、識者としてコメントすべきでない。
さらに同氏は、「夏までに供給量を完全に回復させるのは難しい。現在、実施されている計画停電のような強制的な措置が必要になるだろう。計画停電を継続するか、あるいは家庭や企業といった利用者に使用量の上限を一律に設定するのか、手段はいくつかある。政治がしっかりと対応しないといけない」と述べており、電力会社の責任を政治に転嫁していることは、どうも同氏と電力会社の怪しい関係を疑いたくなる。(同研究所の株主は電力会社である)
また、「経済や社会に与える影響が少ない方策を考えられるかどうかがポイントだ。とくに企業はいつ停電があるかが分からないと動けない。企業が先行き(の電力供給)を見通すことができ、生産計画を立てやすくなるような配慮が必要だ。対応を誤れば、円高に直面する企業は一層の海外生産シフトを進めかねない」とあるが、企業を中心にして考え、一般国民は犠牲にするという発想でよいのだろうか。おそらく同氏は、3月11日の夜に帰宅難民にならずに、ハイヤーで殿さま帰宅されたのだろうし、14日の朝も通勤難民の苦しみを知らないのだろう。これで識者として日経が扱うことが非常識だ。
中長期的に電力の供給体制として、同氏は「資源が少ない日本では原発なしには電力の安定供給の実現は難しいと思う。ただ国民感情から言って、原子力発電所の新設計画は大幅に遅れるだろう。西日本から東日本への電力融通も時間とコストがかかる。当面は厳しい状況が続く」と言うが、全国ベースの電力流通システムを中長期的に開発すべき、という視点がない。
最後に「当面は液化天然ガス(LNG)の需要が増えるだろう。LNG火力発電所は発電量を調節しやすく、相対的に二酸化炭素(CO2)の排出量も少ない。将来的には発想を切り替え、太陽光や風力などの再生可能エネルギーへの投資を強化しないといけない。国民全体でコストを負担して低炭素社会を築くというコンセンサスも得やすくなったのではないか」と述べているが、それであれば風力発電はどこへ行ったのか。電力会社は、自社電源の邪魔になるからといって、風力発電設備の開発に環境アセスメントを十分に行うように環境省に圧力をかけたこと、など過去における電力会社の行動を今こそ明らかにして、ドイツのように風力発電を大量導入すべきではないだろうか。同氏から風力発電の”ふ”の字も出ないことが、日経の選ぶ識者の姿である。