制度改革はエネルギー行政全般に実施せよ

来年4月をめどに原子力安全・保安院経済産業省から分離し、「原子力安全庁」を新設するという。
原子力発電所の安全を厳しくチェックするため、「規制」と「推進」を明確に分けるのは世界の原発運転国の常識だ。しかし、日本では推進役である経産省の中に保安院があるという異様な事態が続いてきた。」と日経が伝えている。
この記事で不足なのは、(以前も書いたが)エネルギー政策全般にわたってエネ庁に「規制」と「推進」が同居している点だ。本来は産業政策とエネルギー政策を分離する必要があり、さらにエネルギー行政を見張る「エネルギー規制当局」が独立して存在しなければ、電力会社とエネルギー行政の癒着や、エネルギー行政と産業育成策の矛盾が拡大することになる。
米国では連邦ベースで、商務省、エネルギー省、エネルギー規制委員会FERCがある。FERCの職員はエネルギー業界とのコンタクトを一切禁止されているし、もちろん人事交流もあるわけがない。さらに米国50州には、規制料金業種を監督する公益事業委員会PUCがあり電力会社の小売事業を見張っている。そして消費者団体はこのPUCの傘下にある。日本では消費者団体が経産省の下にあるのは制度としておかしい。
欧州では英国、フランス、ドイツにも、エネルギー行政組織から独立した「エネルギー規制当局」がそれぞれ存在する。
新たな安全庁では、経産省との人的つながりを弱めるため、原発相は経産省出身の幹部職員が同省に戻ることを禁じる「ノーリターンルール」を導入するというが、これも当たり前の話だ。日本では卸電力取引所JEPXにも、地域の送電線をつなぐ連系線をモニタリングするESCJにも、「往復切符」で電力会社の社員が役職に就いている事実は、欧米からみれば非常識だ。
原子力だけの話ではなく、エネルギー制度全般にわたって「規制」と「推進」のガバナンスを再構築しなければ、この国のエネルギー制度に対する国民の不信をぬぐい去ることはできない。