落第生に模範解答を作らせるな

民主党が成長戦略・経済対策プロジェクトチームで、「原子力への疑念が出る一方で電力供給が厳しい面もある」とし、エネ庁からエネルギー政策の見直しに向けた課題や当面の電力需給の見通し、環境省から再生可能エネの大量導入に向けた課題について説明を受けたという。
エネ庁長官は、来年5月には全基運転停止の状況になった場合、火力発電で代替した場合の発電コストは年間3兆円超増となり、生産コストも全国で年間約7・6兆円増えるとの試算を示したそうだ。また環境省は、再生可能エネの導入拡大に向け、適切な価格での全量買取制度の導入の必要性や送電線の新設、優先接続など制度面での課題が説明されたという。
これにはさまざまな問題がある。
先ず、経産省・エネ庁のエネルギー・原子力政策の誤りで、今回のような原発事故と(送電網の地域割による)電力不足が発生しているにもかかわらず、依然として経産省に見通しと見直しをさせている点である。これは落第生に模範解答を作らせるのと同じであり、経産省以外の外部・海外の識者による見通しと見直しをさせるべきだ。
第2に「原発を止めたら大変だ。代替電源のコストが膨大になるから原発を止めるな。」という主旨での計算と映る。火力で代替する以前に、電力会社以外の自家発電を有効利用し、そのための送電網の運用改革によって全体のコストを抑える方法を取るべきだろう。さらに計算根拠も不明確だ。LNG輸入コストが高ければ、輸入商社に価格の引き下げ努力をさせるべきなのである。
第3に、前掲のように、本来は環境省原発の監視と再生可能エネルギーの推進という「環境エネルギー政策」を管掌すべきだが、風力発電に反対するなど役割をはき違えている。あるいは民主党も本来の環境省の目的を理解していない。環境省には、(電力会社と一緒に反対してきた)風力発電の大量導入、(ずっと否定ばかりしている)石炭火力による電源の補完など、原発全面停止後の電源確保を積極的に提案する姿勢が必要だ。悠長に「再生可能エネの大量導入に向けた課題」などと第3者的な意見を述べている場合ではない。
原発を落とすと、電力コスト高で国民経済が打撃を受ける、国内産業が空洞化する、というのは経産省原発擁護のための脅しであり、原発擁護側の計算式で国民が「はいそうですか」というのは間違えである。コストをどのくらい抑えられるか、そのためには価格シグナルによる任意節電や、広域連系による多種多様な電源の有効利用など、工夫と処方箋について、落第生である電力会社や経産省からではなく、内外の幅広い知見を集めて検討すべきだ。
さらに環境省には再生可能エネルギーの推進母体として、過去の「何でも反対」省を脱皮して、風力発電開発促進のために環境アセス法を見直し、必要によっては脱原発後のベース電源確保のための石炭火力発電所の新設促進など、脱原発後のエネルギー政策に新たな貢献を行うべきである。