発送電分離について

発送電分離によって、①地域的な電源の偏在を是正する、②地域的な電力価格差を是正する、③再生可能エネルギーの導入を促進する、ことができる。さらに市場メカニズムを通した「電力供給の安定化と効率化」が可能となる。既存の垂直統合型の電力供給制度が「地域計画経済型」になっているために全国流通が困難であり、これを改善して「全国市場型」にするための処方箋なのである。現状では市場経済の真ん中に9つの(社会主義)計画経済が居座っている。
2000年カリフォルニア危機は自由化の制度設計ミス(短期スポット市場に集約したこと)、猛暑で電力需要が急増したこと、カリフォルニア以北からの直流流送電線が山火事で使用できなくなったこと、エンロンが送電容量以上の売買契約を電力会社と結んで混雑が悪化したことなど、さまざまな要因が重なった特殊ケースである。一方、カリフォルニア型と同じ電力市場を導入したスペインは今でも順調に機能しているし、再生可能エネルギーの導入も進んでいる。また米国の他の地域では州の範囲を超えた広域送電網がどんどん進展・拡大している。カリフォルニアの過去の一例を「電力自由化の失敗例」として一般化するのは間違っている。
また自由化と構造改革リストラクチャリング)は分けて議論すべきである。米国では、構造改革の行われていない垂直統合型の電力会社でも送電網の機能分離は徹底しており、多種多様な電源の接続による安定供給が図られている。構造改革が実施されている半数の州では、電力供給の安定に問題は一切起きていない。反対に構造改革と送電網の広域化・一体運用している地域では、2003年の東部大停電の影響を食い止めることができた。
他方、欧州はEU指令により加盟国での構造改革が進み、送電運用会社と配電会社がそれぞれ送電資産と配電資産を所有しているので、投資の計画実施が米国よりも適切に行える。つまりEUでは米国より徹底した発送配電分離により投資の問題は構造上無くなっている。欧州ではロシアからの天然ガスに依存せず風力発電などの地産エネルギー比率を増やそうとしており、そのために偏在する新エネ電源を流通させる送電網の広域化と運用方法の協調が行われ、EUベースの送電会社の連携組織も制度化された。
東電では柏崎原発事故以来、送電網の容量が余ったり、原発の安全強化のために送電、変電、配電への投資が遅れるなど、流通設備の運用と形成に変調をきたしている。発電所の事故によって流通部門の投資が疎かになり、変電設備の更新や投資が遅れているのは垂直統合型が原因と考えられる。さらにPPSから託送料金を取っている収入で、事故を起こした発電所の復旧コストを賄うという状況は不自然だ。
最近では福島原発事故の対応で輪番停電が発生したが、変電所など流通部門への投資の遅れで輪番停電地域が拡大したと言われている。さらに東電の財務困窮で流通部門への新規投資もままならず、スマートメーターの開発もストップしている。垂直統合型だと、発電所の事故後の負担で流通部門への投資が滞る状態が生じ、さらに悪化する可能性がある。
欧州ではノルウェーとオランダの間に568キロの海底送電線があり、下関と釜山の距離は約220キロなので、もしも日本の電力流通部門への投資が不足した場合には、韓国と連系する方法も考えられる。流通部門、そして連系線への投資が回らないのは垂直統合型が原因であり、それが電力供給を不安定にしているのであれば、国際連系線の建設も視野に入れるべきだ。
今後必要なのは、いかに広域で送電網を一体整備し運用して、再生可能エネルギーを含むさまざまな電源を幅広く接続して電力を安定的に供給するかの議論であり、欧米のエネルギー市場の変化から学ぶことは多い。
発送電分離の是非を議論する人々は、井の中の蛙のストーリーではなく海外の事例を理解してから発言してほしい。