東芝の新たな買収は吉と出るか

スイスに本社をおくランディス&ギアLandis+Gyrを東芝が1870億円で買収する。これはスマートメーターとシステムの製造と販売を行う企業で、年間売上は約1000億円だ。
原子力事業の先行きが不透明な中、東芝は背水の陣でこのスマートグリッドのパーツとなる会社を買うのだろうが、果たしてその価格が見合うのか、スマートメーターの将来性が日本に、そして海外にあるのか、同社に競争力があるのか、見極めたのだろうか。
同社の売却案が出されたのが今年の2月。買い手の候補には、GE、ハニウェル、ジョンソン&コントロール、シスコなどが手を挙げたが、結局(おそらく)東芝のビッドが最も高かったのだろう。
電力メーターでは米GEが大手だが、東芝にはGEよりも高値で買う必要があったのか。原子力のウエスティング・ハウスを買った時も背水の陣だったときく。そして今回もまた世界の強豪を相手に、価格を吊り上げて買うだけの競争力と市場を東芝は見通せたのだろうか。
確かに欧州では同社の業績はある。おそらくフランス電力の配電子会社であるERDFも同社と長期パートナーシップ契約を結んでいる.
しかし欧州各国は自由化が基本であり、ERDFもスマートメーターの仕様をすべて開示してどこの国のどのメーカーからも調達できる仕組みであり、それは日本の電力会社と癒着したメーカーの構造とは全く異なる。
さらに米国の先端をゆく電力会社はスマートメーターではなく、家庭内の通信設備(モデムやゲートウェイ)を通じて、簡易なメーターと通信できるシステムに移行する可能性もあり、設備としてのスマートメーターは欧州に限られるとの予想もある。
日本国内では、東芝とタッグを組んだ東電がこの有様で、東電ではスマートメーターの導入は棚上げ状態と聞く。関電やその他の電力会社も、東芝とタッグを組むのではなく、別のメーカーとの動きをするか、原子力賠償負担金でその余裕はないかもしれない。あるいは、経産省によるスマートメーターの制度化で、税金による高いスマートメーターを国民が入れることになることを狙っているのだろう。
原子力で背水の陣を敷いた東芝は、スマートメーターで2匹目のドジョウを狙えるのか。ぼやき庵はskepticalである。もしも国の制度で入れるのであれば、スマートメーターのコンセプト自体、すでに海外の先端的な時流からは外れている。井の中の蛙の役人が、井の中の蛙のメーカーを重用するのは、結局、国民負担を増大させるだけだ。