サルコジ大統領の協力の真意

フランスは原子力をエネルギーの中核とする希有な国だ。フランスと正反対な立場にあるのがドイツである。
アメリカもオバマ大統領は原子力政策の発展を期しているが、現実的には日本の事故を受けてかなり困難だろう。
サルコジ氏は菅総理との会見で、フランスの安全基準に照らし合わせて、日本の事故による危険を緩和するために協力すると述べている。
フランスの知見の提供と協力は日本にとって有難いし必要である。東電や政府では対応できなかったからだ。しかし、ここでサルコジ氏は「フランスの安全基準」を日本に適用する戦略を開始している。
今までの世界の原子力産業は、フランスと日本がトップランナーだったが、日本の事故でフランスが単独トップになった。そしてこの機会にフランスの安全基準の優位性で事故を検証することで、フランスの基準を世界の基準にしようという意図が見えるのである。
今回の地震津波放射能汚染が起きるまで、日本の産業界はスマートグリッドを含むさまざまな日本製品の標準standardを世界標準とするよう働き掛けてきた。しかしそこにはアメリカの標準と欧州の標準の壁が立ちはだかっていた。
ここで原子力に失敗した日本のタイミングで訪日したサルコジ氏は、フランスの安全基準で日本の基準を上書きすることができると考えている。さらに日本の基準の甘さを明確化することで日本の原子力技術がフランスに劣位することを世界に見せている。そしてサルコジ氏は日本を助けることで、フランスの原子力政策の正当性と、来年の大統領選挙を控えた国内政治にアピールを示している。
そもそも日本(というか東電)の致命的なミスが問題なのだが、フランスの支援を受け入れるまでの間に、フランスが大統領までを派遣して、スタンダードを売り込みに来させる余裕を与えたのは、大きな政治的失敗である。このままでは永久的に日本はフランスの原子力属国になるしかないのである。サルコジ氏は日本の原子力の息の根を止めて、アレバという原子力企業にアメリカ市場を席巻させるつもりだろう。(アレバの社長も来日している。)
日本のエネルギー政策の判断力の甘さと遅れが、フランスに屈する結果を招いた。これは仕方がないと言えば仕方がないが、このような事態がさまざまな拙策の序章なのかもしれない。
放射能汚染の除去はフランス、そして環境対策はドイツ、というように両者を招いて、バランスをとるだけの見識が政治家に欠如している。サルコジ氏を招くときはメルケル氏も招くべきではないか。