エジプト雑感

18日間におよぶエジプト革命によって、ムバーラク大統領が大統領を辞任した。
最後まで辞任したくないムバーラク氏に引導を渡したのは、これ以上混乱が続くと王族支配が危ぶまれる、周辺諸国からの圧力ではなかったのか。そして彼の辞任こそが、彼の懸念していたカオスを防いだのかもしれない。
最近も書いたが、この後、カオスになるかならないかは軍とムバーラク大統領の後任のオマル・スレイマーン氏の動向によるだろう。ムバーラク氏は軍の出身だし、スレイマーン氏はエジプトの旧体制の情報相であり、国民にとってはゲッペルスのように映っていたかもしれないからだ。
いずれにしても現在の与党、閣僚の体制を刷新して暫定政府を作り、これからがどうするの、が問題である。そしてエジプト国民が、新しい国を作るためには時間がかかるという現実に我慢ができるか、が問われるだろう。場合によっては暫定政権が1年間続くかもしれない。(日本でも政権交代が起きて1年半たってもよちよち歩きのままだ。)
とくに改革派が求めているのは文民政権であり軍の文民統制である。ここにエジプト軍の大きな試練が待ち受けているし、さらに周辺諸国における軍の立場の変化がどのようになるのか、そしてこれらの国の支配者側がどのようにこの変化を受け入れられるか、また中東諸国の軍との関係を重視してきた米国の中東政策がどのように変化するのか、今後12カ月は中東情勢から目が離せない。
ケニア人を父に持つ米国のオバマ大統領は、"Egyptians have made it clear that nothing less than genuine democracy will carry the day. The armed forces will now have to ensure a political transition that is credible in the eyes of the Egyptian people."と発言している。言い方は微妙だが、「真の民主主義以外は排他される」と言う意味だろうし、「軍は人民の本意に即した変革を指示すべき」と取ることができる。
米国は、中東・北アフリカ民主化によって、力(軍)を使った独裁君主との連携を組み替え、新たな文民政権とバランスを共有する世界に足を踏み入れることになるだろう。そしてイスラエルを同盟国、イランを敵国と決めつけた過去の呪縛からの解放も時間の問題かもしれない。
それにしても、今回のエジプト革命が「イスラム革命」でも「反米革命」でもなく、一切のイデオロギープロパガンダが出てこなかったことは、(中国など)イデオロギープロパガンダで国民を支配してきた政党政治の終焉を告げるものである。