混迷するフランスの原子力政策

フランスで「ルセリー・レポート」が一部公表された。ルセリー氏はフランス電力EDFの前CEOで、昨年末にフランスの原子力ビジネスがアブダビで敗退した結果、サルコジ大統領にこのレポートを書かされた、いわゆる始末書である。さらにこのレポートではルセリー氏による今後のフランスの原子力政策のあり方も述べられている。

このレポートは5月に出来上がっていたが、核兵器などの機密情報を除いて今週、公表された。公表されたのは約20ページである。

このレポートには、現在のフランスの原子力政策の混迷ぶりが表わされている。アブダビで負けた原因である国内企業の足の引っ張り合いを止めさせるために、EDFによる原子力メーカーのアレバへの増資でEDFとアレバを近づけようとしているのが最大の論点である。

しかしながら欧州のアナリストの反応は一様に批判的だ。まずアレバがフィンランドで建設中の新型原子炉EPRのコストが膨大になっており、月末に発表される決算で赤字も予想されている。さらにEDFの債務も膨れ上がっており、今後、運転の延長を余儀なくされる原子力発電所の補修コストの資金負担も重くのしかかっている。

もともと個人主義のフランスで、EDFとアレバの不仲は際立っていた。最近ではEDFがアレバの競争相手のドイツ・シーメンスとの業務提携を発表した。それを見たルセリー氏は、アブダビでの負けをきっかけとして両者を政治的にまとめようとしているが、はたして上手く行くだろうか。

ルセリー・レポートでは15項目の提案がなされているが、その中でとくに興味深いのは、「エネルギー省の創設」、「EDF原子力のチームリーダーにする」、「輸出相手国の要請に合わせることができるサービス企業を設置する」などの提案である。これらは日本にとっても同じ課題である。日本には原子力ビジネスのリーダーが居ない。(政治にも行政にもリーダーがいないし、メーカーも電力会社も技術屋しかいない。)

サッカーでも仲たがいを露呈したフランスが、原子力で「チーム・フランス」を組むのは大変だろし、現実的とはなりにくいだろう。しかし、フランスの原子力政策の世界へのインパクトが大きいことは確かだ。

オールジャパン」で臨もうとする日本のやり方が非現実的なことはフランスの例をみれば明らかだ。フランスの混迷を教訓として、さらにフランスの間隙を狙ったビジネス戦略が必要だ。