水害と対策(その2)

前掲の「水害マップ」だが、当該の住民への周知徹底の方法が問題だ。区役所で水害マップを作成して各戸に配るのは基本だが、一般的に豪雨となる入梅前に毎年、注意を喚起する行動を取っているだろうか?
米国では夏後半のハリケーン・シーズンを前に、メキシコ湾沿いの電力会社が毎年ハリケーン対策を講じている。夏は人も移動するし帰省客もいる。そのために各自治体は「毎年」夏場の水害対策を明示し、周知徹底するようなポスター、メール、動画などを配信すべきだ。
さらに流入する新たな住民にも水害情報は徹底して伝えなければならない。例えば、賃貸を斡旋する不動産屋では水害マップを店頭に貼ることを義務化すべきだ。極端な例では、重要事項説明書にその地域の水害リスクを入れる方が良いだろう。水害マップは公開情報なのでその開示によって利害得失が発生すべきものではない。水害危険度の高い場所の賃料は、危険度の低い場所よりも安くなるかもしれない。
さらに予測と予知の関係を刷新する必要がある。よくテレビで「40年住んでいるけど初めてだ」という被災者の声がある。しかし毎時50ミリ以上の降雨は予測できるし、70ミリ、90ミリのシミュレーションもできる。それがどのような気象条件で発生するか、時系列的に解析し、危険情報につなげることが予知だと考えられる。
水害の被害は甚大である(前掲の米国現地調査ではカトリーナ被災の9ヶ月後でも瓦礫の山と悪臭は消えていなかった。)家具だけでなく家電製品は水没すると使用できなくなる。家も押しつぶされたり、押し流されたり、被災地全体が廃墟になることも考えられる。
防災には金がかかる。しかもいつやってくるか分からない。将来の危険リスク回避に対する投資である。米国では連邦危機管理局FEMA)が全米洪水保険プログラム(NFIP)を展開している。FEMAは各自治体に対して水害や山火事などの防災策を義務化し、防災計画と実施策を作成・提出させている。各自治体は水害マップを作成し、防災の計画作りと実施策にはFEMAが資金援助する。そしてこの義務を果たしていない自治体には、基本的には被災後の連邦支援は行わない。つまり、連邦政府は「防災にはコストがかかるが、被災後の復旧コストの数分の一だ。」ということを理解しているのである。
日本では自民党が2005年の政策要綱の実施と成果の評価を無視しているように、過去のことは水に流す風潮がある。今年の夏も水害で数多くの犠牲者が出た。各被災地の現場の状況、気象状況、降雨量、地形図などを振り返って検証し、水害マップを最新技術で更新し、将来の知見につながるような歳出を行うべきだ。
台風と水害(の復旧工事)で毎年、地元の建設会社が潤う仕組みを抜本的に改め、尊い命が失われないためのリーダーシップのある政治が必要だ。