水害と対策

米国を襲った2005年のハリケーンカトリーナの9か月後に現地調査に入った。以前から堤防の脆弱性が指摘されていたが堤防が強化されることなく甚大な被害となった。ニューオーリンズの被災地は最初に決壊した堤防から流れた水で家が押し倒され、さらに反対側の堤防が決壊して逆方向からの水の攻撃に再びさらされた。いわゆる報復ビンタ状態だった。これは「水から守る」手段が“予想通り”破壊された結果だ。
同じ2005年には都内の善福寺川が氾濫し家屋で床上浸水の被害が出た。これは都市型水害と言われ、短期的な豪雨によって下水のキャパシティを超えたために路上に水が溢れた。そのとき知ったのが都内の下水道の処理能力は1時間あたり50ミリの降雨だということだ。つまり東京都水道局の設計が毎時50ミリの降雨を最大と仮定して設計されており、それ以上の降雨があれば当然、水が道路に溢れ出す。だから一部の自治体は低地に貯水槽や遊水池を設置して下水道のキャパシティを補完している。これは「水から守る」手段の設計時と異なる気象条件が出てきたということだ。
2006年には南九州豪雨を現地調査した。鹿児島県のある地域では上流のダムで許容量を超える降雨があったために放水を行った結果、川の水位が5m以上上がり流域の家屋を襲った。ダム決壊より被害は少ないと考えられるが、「水から守る手段」の設計を上回る降雨によって、大災害を守る手段は機能したが水害は避けられなかった。
いずれのケースでも、水を守る手段が設計時の想定と異なる状況で機能せず、その結果“予想される範囲で”被害が出ている。想定と異なる気象条件をもたらしたものは気候変動(Climate change)かもしれない。つまり防災のパラメーターを変更する必要が出てきているのだ。
日本の自治体では「水害マップ」の作成が行われているが、すべての自治体が作成しているわけではない。またその水害マップの作成時の想定レベルが正しいか(低すぎないか)チェックしなければならない。さらに住民に水害時のリスクと回避行動が周知徹底されているかどうかを確認すべきだ。周知行動のパターンとしては予想される水害のビジュアル化だ。確か三重県の都市では津波のシミュレーションを行い、避難方法を具体的に示している。
最近の情報技術を使えば、水害シミュレーションが各地理条件で可能なはずだ。都市部では「逃げられない水」が50ミリ、70ミリ、90ミリの降雨でどのような場所や地下室で氾濫するのか(例えば足立区など)、また水源に近い地方の山間部ではこれらのパラメーターでどのような鉄砲水が来るのか、その場合にはどのくらいの水圧が襲うのか、シミュレーションができるはずだ。
これらの時系列データをもとに、住民の避難方法を再検討しなければならない。