日本版グリーン・ニューディールを

雇用は企業が生み出すのではない。市場が生み出すのだ。そして以前のように米国に大きな市場があり、車や工業・家電製品のように輸出をとおしてその市場を活用し、収益を上げてきた。これからは中国が主要な輸出相手国となるかもしれない。
しかし収益は為替レートに左右される。それを解決するのは直接投資による工場進出だ。しかしそうすれば雇用は失われる。
つまり短期的ではなく長期的に雇用を創出するためには、市場を国内で創出し、そして為替レートで収益が取れる際には輸出が可能なように、世界標準にあわせた工業製品やシステムの開発が必要となる。
米国発の景気浮揚策はグリーン・ニューディールだ。米国は今まで社会資本や電力設備投資に対して連邦政府による財政支出はほとんど無かった。だから橋が落ちたり、送電網の老朽化が目立っていた。これをオバマ政権は一気に取り戻そうとしている。
グリーン・ニューディールの目玉が次世代電力網だ。これによって社会のエネルギー消費を家庭レベルで可視化し、発電側、送電側にも新たな情報を提供してエネルギー消費を少なくし、CO2の排出量を減らし、化石燃料の対外依存度を下げようという試みだ。
米国は確かに日本と比べるとエネルギーの大量消費国家で輸送部門も車依存、石油依存で効率が低い。しかし日本は地震大国資源小国で、中国とインドがこのまま成長すれば資源確保は困難な作業になる。つまり日本は米国と違ってすでに省エネが進んでいると多寡をくくるわけにはいかない。
日本のグリーン・ニューディールには欧米と異なる問題がある。それは電力会社とガス会社による50年前の供給システムの保護だ。それによって日本では欧米のような次世代送電網から派生するさまざまなビジネスが実証すら不可能だ。だから経産省NEDOはわざわざ米国のニューメキシコまで行って実証をやろうとしている。
国内の制度が半世紀も固定し、世界の潮流から遅れることを一切無視し、エネルギー供給制度の鎖国を続けている日本の電力・ガスの世界は特異だ。
あえて思い切った提案をすれば、最近書いたように電力会社の解体だ。まず発電、送電、配電、小売を垂直分離し、送電網を全国流通できるように水平統合する。
そして北海道と北陸、沖縄以外の東京、関西、中部、九州、四国、中国の電力会社の小売部門を最低2分割する(東京の場合には7分割)。それによって寡占を防止して地域ごとの競争を促す。競争は技術革新の母であることを認識すべきだ。
また発電部門は各電力会社に残すが原発の運転と使用済み核燃料の処理処分だけは別会社を国と折半で設置して行う。送電部門は全国で設備所有と運転を行う会社を1社設立し、さらに現在の電力会社に残して分離した配電会社とともに政府の料金規制下に置く。つまり発電と小売は自由化し、送電と配電は規制下におく方式だ。当然、送電と配電はオープン・アクセスとし一定の条件のもとでは誰でも送電・配電ネットワークにアクセスできる。それによって電力の安定供給は送電と配電のネットワーク運用者の責務となり、発電所建設よりも需要管理へ業務が近代化される。
この送電網のオープン・アクセス化で風力発電の接続が促進され、配電網のオープン・アクセス化で家庭や小型商業設備の太陽光発電の接続が容易になる。また配電網を情報通信化し次世代電力網として活用すること、そのための通信プロトコルを世界標準化することで、さまざまな家電機器のネットワーク化で新たな製品やサービスが生み出される。
携帯電話やブロードバンドの通信網が世界で最も発達した日本では、これらのインフラと安価な利用料をテコにした製品やサービスの開発が最も行いやすいのである。つまり日本の情報通信の有利性を生かした次世代電力網によってさまざまなビジネスが生まれ、世界標準の導入で世界で通用するビジネスが展開でき、国内の雇用と輸出機会が生まれるのである。
しかし現状の50年前の電力供給制度を必死に擁護している状況ではこのような雇用は生まれない。それどころか前述のように世界標準から隔離されガラパゴスとなり、新たな製品やサービスの開発も海外移転し、地方経済は疲弊し、その結果、地方の電力会社の経営は破綻する。日本の電力会社やガス会社はそうなる前に自らの立場と経済状況を認識し、自己改革を決断して欲しいと思う。
とくに低炭素社会の創出に向けて、ガス会社の未来は無い。ガス会社のビジネスは電力を中心としたものになるし、しかもグリーン電力を利用したサービスとその他のサービスを複合的に提供することとなる。さらに次世代電力網を利用できるかどうかがサバイバルの成否を決める。このままでは、地方の中小ガス会社の経営は困窮することが(地方経済の疲弊と脱化石燃料で)目に見えている。したがって全国何百ものガス会社の雇用を守るためにも次世代送電網の整備は不可欠であり、そのためには電力会社の構造改革が急務なのである。